若者の環境意識と、「行動」への道

これからの未来を生きる若い人たちにとって、地球環境の悪化はたいへん切実な問題です。効率性や便利さが優先され、使い捨てを不思議に思わなかった世代とは違い、今の若者は地球の危機をより敏感に感じているようです。ただ、環境に対する意識の強さが、十分に行動に結びつきづらい面もあるようです。

 

■環境問題に対する若者の意識
ベネッセコーポレーションが2021年10月に実施した調査では、環境問題に対して「かなり重要」だと答えた子ども(小学生~高校生)が59.5%にのぼりました。親の42.5%よりも高い結果になりました。子どもの88.6%が環境問題に対して行動していきたいと感じており、62.4%がもっと環境問題について学びたいと回答しました。

また、野村證券が2020年に行った調査では、「SDGs」や「ESG投資」という言葉への認知度は若い世代ほど高く、環境や社会への貢献度を重視する傾向がありました。SDGsとは、世界各国が一致して定めた「持続可能な開発目標」。ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」に配慮した投資や経済活動を指します。

若い世代が最も危機を感じているのは、やはり気候変動です。旭硝子財団が2021年9月に実施した調査では、日本と海外24か国(Z世代:18~24歳519名、大人世代:25~69歳573名)を対象に、環境意識について尋ねました。その結果、「気候変動」や「異常気象」などが危機的だと思う問題として挙げられました。

 

■行動につながりにくい現状
しかし、環境に関して実際に行動している若者の割合は、それほど高くはないようです。野村證券の調査では「自分自身はSDGs/ESGを意識して行動している」と回答した割合は全体で約3割にととまりました。「地球環境を犠牲にした経済活動を行う企業」への反発感も強くありませんでした。

日本総合研究所が実施した2020年8月の調査では、中学生・高校生・大学生を対象にESGおよびSDGs、キャリア等に対する意識を問いました。その結果、「自分自身はESG/SDGsを意識して行動している」と回答した割合は中学生で25.7%、高校生で28.9%、大学生で35.3%でした。

以上の調査から、若者は環境問題への関心は高いものの、それを具体的な行動につなげるには至っていない人も多いことが伺えます。

 

■若者の環境保護活動
では、実際に環境活動に取り組んでいる若者たちは、どのようなアクションを起こしているのでしょうか。一般的に広まっている活動としては、海岸清掃やリサイクル、自然保護活動などが挙げられます。また、若い人たち発起人となって、環境問題に関するイベントを企画・運営した事例も多いです。

環境活動を行う特定非営利活動法人「A SEED JAPAN」は、1992年にブラジルで開催された「地球サミット」(国連環境開発会議)の直前に学生サークルが集まって発足しました。環境を配慮した商品流通調査などに力を入れ、社会や他の若者たちへの働きかけを行ってきました。環境問題などの高まりを反映して拡大し、既に30年以上の活動歴を誇ります。

このほか、学生たちが地域のスーパーなどの環境問題への対応を調査して店ごとに評価し、若者の消費行動の意識変革に役立てようという活動している事例もあります。食品の包装や詰め替え製品の販売状況、リサイクルの取り組みなどを調べ、その結果を情報発信しています。

ナショナルジオグラフィックが2019年に行った調査では、若者は気候変動やプラスチックごみなどの環境問題に対して高い関心を示し、ストライキやデモなどの抗議活動に積極的に参加しています。また、若者はSNSを使って情報を共有し、行動を起こす力を持っています。小さな環境保護活動でも、SNSで積極的に発信することで、その輪が日本全国、そして世界に広がることがあります。

2018年に消費者教育学会が行った調査では、小学生から大学生までの若者は、自分自身も環境保護活動に取り組んでいると回答する人が一定数いる一方で、「何もしない」という割合も小学生では3割にのぼり、実践意欲にばらつきがあることもわかりました。

 

■環境問題に対する若者の取り組みを支援する制度
環境意識の高さを日々の行動へと結びつけるためには、若者の取り組みを支援する制度を普及させることが大切です。

具体的な例としては、環境保護活動のための助成金制度が挙げられます。持続可能な開発目標(SDGs)に沿った活動を行う団体や個人に対して、国や自治体、企業などが資金を援助するのです。若者の心の健康とウェルネスを促進するプロジェクトへの助成金や、自然と生物多様性の保全プロジェクトへの補助金なども、環境活動をさらに広める契機になり得ます。

若者たちが環境問題に関する活動を行うことは、企業や自治体が環境問題に取り組むきっかけにもなります。国連や企業など多くの大人がかつてないほど若者の意見を聞こうとしています。若い人たちが本気でやり続ければ、きっと声は届きます。

実際に若者の活動が世論や政策に影響を与えたケースもあります。例えば、グレタ・トゥーンベリさんが始めた「気候変動ストライキ」は、世界中で何百万人もの子どもや大人が参加し、気候危機への対策を求める声を高めました。

 

■環境教育が大切
今の地球は病気といっても過言ではありません。環境への配慮が必要であることは分かりつつも、ポイ捨てや電気の無駄遣いなどを続けています。このまま大量生産、大量消費、大量廃棄が続けば、地球の持続可能性が失われる懸念は高まっています。

こうした現状を変えるには、幼少期からの教育も大切です。いわゆる環境教育です。さまざまな環境問題を解決し、未来のためにどんな選択肢が必要か自分たちで考え、選んで行動できる人たちを育てる取り組みになります。

環境教育を通して、子どもたちが地球のありがたみを感じられるような多彩な自然体験の場を提供していく必要があります。子どものころから環境についての意識が根付けば、環境破壊を助長するような行動を控えるはずです。これを個人レベルから地域、国レベルでつくり出せれば、全体が進歩していくでしょう。消費者教育学会の調査でも、8割以上の若者は環境教育の必要性を感じていました。

環境教育のための指導者の育成も大切です。指導する側の人も、地球全体の環境のことを学んだ上で、幼児・児童らに知恵を授けたいものです。

地域や家庭の高齢者の力を借りることも有意義でしょう。日本でも1950年代ごろまでは容器は再利用し、洋服は繕い、靴は修理して使っていました。ところが、安価で便利な「使い捨て」を始めてしまってからは、大量の廃棄物を生み出し、環境に負荷をかけていました。今の祖父母の世代には、地球を傷めない形で幸せに暮らしていた知恵が残っています。

 

■志を持ち続け、行動できるように
使い捨てを控えるような質素なライフスタイルを実践することは、とりわけ若者にとっては難しいと考えられていました。しかし、多くの若者は環境問題を「自分ごと」としてとらえ、古い習慣を変えようとしています。大人よりも当事者意識を持ち、独自の環境文化をつくり出しつつあるように見えます。

生活にかかわるさまざまな問題を地球規模で考え、解決を目指し主体的に社会に働きかける。この「地球市民」の芽が確かに育っています。若者が志を持ち続け、行動できるように、社会としての手厚いサポートが必要です。

かけがえのない地球と共生し、そのために必要な行動がとれる人材が増えることが、持続可能な社会の実現につながっていきます。