エコツーリズム

エコツーリズムとは、自然と触れあう旅です。「エコロジー」と「ツーリズム」を足し合わせた言葉で、農業体験、植林、クリーンアップなどの活動も含まれます。環境教育プログラムとしても注目されています。

エコツーリズムには、(1)旅行によって自然を傷めない(2)生態系の仕組みや土地と文化の結びつきを知る環境教育性がある(3)旅行先の地域住民の自然保護活動を後押しする―などの特徴があります。

田植えや稲刈り体験のように、対象を農山村での生活体験に絞り込んだ旅は「グリーンツーリズム」と呼ばれますが、こちらも広い意味でのエコツーリズムです。また、「植林ツアー(観光植林)」もエコツーリズムの一種です。植林では、汗を流して苗を植え、それがやがて地球環境を守る、あるいは巨木に生長するのだという充足感や夢が味わえます。

 

■国連が提唱
エコツーリズムは、1980年代から国連などで提唱されるようになりました。リゾート開発のような手段で地域を観光化するのではなく、自然や住民の伝統的な生活様式を破壊せずに、環境に詳しい専門ガイドの引率で自然を体験することが推奨されました。南米やアフリカなどで発達しました。

日本国内では1998年3月に、環境庁(現:環境省)の公益法人「自然環境研究センター」などが中心となって、エコツーリズム推進協議会が発足。政府も後押ししながら普及・啓発が図られてきました。

日本でエコツーリズムが注目された背景には、バブルの反省もありました。バブル時代、国内で大規模なリゾート開発が乱立するとともに、海外旅行に不慣れだった日本人が「強い円」を手にどっと海外に押しかけ、環境や地域社会に大きなインパクトを与える事例が見られました。

こうしたなか、日本旅行業協会は、エコツーリズムを「自然観察を中心とし、その土地に存在する生態系を守り、悪影響を最小限にするツアーの実践」と定義づけ、新しい柱として推進しました。

各地域の自然保護団体などが、小規模に実施してきた泊まりがけの自然観察会も、エコツーリズムとして改めて注目されるようになりました。ボランティアを募って海外植林ツアーを企画する民間団体も増えました。

 

■地方の伝統文化
近年、日本の各地で自然や日本文化の原点を見つめ直す機会としてエコツーリズムを利用し、地域振興に活かす取り組みが活発になっています。

現代の日本人が失いつつある伝統的な生活文化が、地方には依然として多く残されています。最近のエコツーリズムの中には、そうした歴史や文化をベースに、地域の「語り部」と歩く歴史散策などが楽しめるコースもあります。

 

■二次的自然
エコツーリズムは、人間活動によって創出されたり、人が手を加えることで管理・維持されてきた「二次的自然」も対象になります。里地里山と呼ばれる身近な自然です。

二次的自然は人が管理して初めて成立します。最近は農林業の衰退で、地域だけでは守れなくなっている地域が増えています。田畑や森林に適応してきた動植物は、耕作地が放棄されたり、森林の間伐が止まると、生存できません。

とりわけ少子高齢化が進む日本では、都市部と地方の人たちが世代を越えて保全に取り組む必要があります。

 

■観光収入で野生動物を守る
エコツーリズムには、参加者が増えれば増えるほど、地域住民による自然環境や野生動植物の保全への取り組みが活発になる、という側面があります。

環境破壊が進む開発途上国の中には、「自然保護を優先させることの経済的な利益」が、そこで暮らす人々の利益に直結しづらいと訴える国も少なくありません。大規模開発を優先させるほうが、短期的には雇用創出や税収増につながりやすいからです。

エコツーリズムには、多様化する観光客のニーズをうまく取り入れながら、地域の繁栄につなげるという思想があります。アフリカのジンバブエのサバンナで、観光収入によって野生動物保護の財源が確保されているのは一つの例です。

 

■日本国内の事例
国内で長らく実践されているエコツーリズムは数多くあります。例えば、小笠原のホエールウオッチングや襟裳岬のアザラシ観察のような野生動物観察ツアーが有名です。襟裳岬では1987年から国内エコツーリズムの先駆けといわれるアザラシの観察ツアーが行われています。また、日本旅行の「トムソーヤクラブ」のような自然体験キャンプもあります。

関東平野と秩父山地が接する埼玉県飯能は、古くからの林業地で、都心から電車で約1時間のレクリエーションエリアとしても親しまれてきました。良質の木材として全国的に有名な「西川材」の産地。しかし林業の不振から、間伐・下刈りなどの管理が行き届かない林も増えました。

そこで、市民団体などがエコツーリズムの考えを導入し、地域固有の自然や文化、林業などの産業を見つめなおし、地域の活力再生のための取り組みが行われるようになりました。例えば林業関係者が都市から人を呼んで西川材を活用した家具づくりやカヌーづくりを植林の保全と連動させるなどの企画も実現しました。

自然観察会や自然体験も行われています。里山の資源を活かした日帰り観光は、「大都市型里山保全」のモデルとして注目されています。

 

■琵琶湖の湖西
一方、滋賀県の琵琶湖の湖西地域では、旅行者が豊かな自然や人々の暮らしに触れあうことで、「人と自然との関わり」への理解を深めるとともに、自然や地域文化の保全・継承へ向けて参加者自らが行動を起こす機会が提供されています。

湖西地区では、山々の森から流れ出る豊かな水が、古代湖である琵琶湖に注ぎ込みます。日本の原風景ともいえる自然、暮らし、文化、そして、それらが織りなすさまざまな風景が今も数多く残っています。しかし、里地里山の管理の担い手は確実に減少しています。地域外の力を地域の環境保全に活用する取り組みとして、エコツーリズムが大きな期待を集めています。

旅行者が地域の豊かな自然や人々の暮らしに触れあうことで、「人と自然との関わり」への理解を深めるとともに、自然や地域文化の保全・継承へ向けて行動を起こすようになる――。そんな連鎖が望まれています。

地球にやさしいエコツーリズム。海外は、南アフリカのボルダーズビーチ、タイのクラビ島、エクアドルのガラパゴス諸島、モルディブ共和国、ブータン王国、オーストラリアなどでも行っています。旅行を計画するときは、ぜひ「持続可能な観光」を!そして、旅先でも地球市民として環境に配慮した行動を心がけましょう。