自然と親しむ 伊勢志摩国立公園

一般社団法人 Earth Citizens Organization(ECO)の地球市民研修センターは、国立公園のエリア内にあります。三重県志摩半島一帯に広がる「伊勢志摩国立公園」で、伊勢神宮(伊勢市)周辺の森林や英虞湾(志摩市)のリアス式海岸などの自然の魅力にあふれています。

三重県伊勢市、志摩市、鳥羽市と南伊勢町の3市1町にまたがる伊勢志摩国立公園は、13番目の国立公園として、1946年に指定されました。戦後の指定第一号でした。

国立公園とは、自然公園法に基づき「わが国を代表する傑出した自然の風景地」として保護と利用を推進するため、環境省が指定し、管理する区域です。現在、全国に34か所あります。

伊勢志摩国立公園は、伊勢神宮とその背後の森林を中心とした内陸部と、紀伊半島東部の志摩半島の海岸部で構成されており、総面積は約7万4600ヘクタール(うち陸域5万5500ヘクタール、海域1万9100ヘクタール)。

内陸部の大部分は標高30~50メートルの丘陵。海岸はリアス式の複雑な地形で、波がおだやかな湾内では真珠やカキなどの養殖が盛んです。

2016年には、この地域で伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)が開催されました。日米英仏独伊カナダの7か国と欧州連合の首脳が、志摩市の賢島にある「志摩観光ホテル」に集まり、世界経済、気候変動、テロ・難民対策などについて話し合いました。日本での開催は6回目で、「日本の自然、文化、伝統を肌で感じてもらえる」として、伊勢志摩が開催地に選ばれました。

 

■美しい海と豊かな食文化
伊勢志摩は、古代から天皇に食材を献上する「御食国(みけつくに)」として知られていました。アラメやワカメなどの海藻がよく育つ藻場で成長したアワビは、伊勢神宮にも奉納されてきた。イセエビ、塩、カツオ節なども有名です。

伊勢志摩国立公園の海側のエリアは、伊勢湾や熊野灘に囲まれています。景観が美しいリアス式海岸の入り組んだ地形の先には、小さな島々が点在しています。

熊野灘には黒潮が流れ込み、年間を通し気候は温暖。古くからアワビなどの海女漁や真珠やのりの養殖、漁業などが盛んに行われてきました。海女など海と一体化した生活が色濃く残っています。

こうした豊かな自然の中に伊勢神宮ができ、地域の人は自然を敬いながら暮らしてきました。恵まれた海の幸、山の幸を人が少しずつ利用することで自然環境が維持されてきました。

 

■海女
今でも志摩半島の沖は、伊勢湾に流れ込む川がもたらす山の栄養分と、多くの生き物が集まる黒潮が出合う豊かな漁場です。

海女漁が地域に受け継がれており、ウエットスーツで海に素潜りする光景が見られます。海女さんたちは海藻の森をかき分け、岩場に張り付くアワビを見つけます。ノミを差し入れてアワビをつかみ、浮上します。素潜りの海女が一度の潜水で活動できるのは50秒。この漁法が乱獲を防いできたと言われます。

数千年の歴史があると言われる素潜り漁ですが、鳥羽市立海の博物館の調査によると、この地域の海女の人数は減っており、1949年に約6000人いた海女は、2022年に514人になりました。

 

■英虞湾
志摩市の志摩半島南部の「英虞湾」も国立公園の魅力の一つ。湾内には大小60ほどの島が点在。内海の穏やかな環境を生かした真珠やアオサ養殖が盛んです。真珠養殖のいかだが点在し、近くの漁師がアオサ養殖の準備にいそしむ姿が見られます。

穏やかな波の音と、遠くに聞こえるイソヒヨドリの甲高い鳴き声が聞こえます。冬になれば空気が澄み、リアス式海岸の谷間から遠くの大台山系がくっきり見えることも。

英虞湾では、地元住民による干潟の再生活動が行われてきました。魚や貝、カニなど、多くの海の生き物が暮らす干潟。英虞湾では干拓などによって全体の7割以上の干潟が消えたことから、三重県の支援も得て、海草の移植などを行っています。

 

■伊勢神宮の森林
伊勢神宮は全国の神社の中でも観光地・参拝地としてトップクラスの人気を誇ります。荘厳な雰囲気が魅力。「日本の原風景」のひとつとして愛されています。

伊勢神宮は森づくりの先駆的なモデルとして高い評価を得てきました。「伊勢神宮の森」とも呼ばれる「宮域林」は約5450ヘクタールに広がる森林。針葉樹と広葉樹の混交林として生態系が守られています。

神宮では1923年に森林経営計画を作り、天然林と、遷宮用材林として育成する林に分けて管理してきました。

 

■「自然」の持つ力
自然と親しむことは、心と体の健康にとってもプラスだと言われます。自然のおかげで心のモヤモヤが晴れたという体験は、だれにでもあると思います。考えが複雑でまとまらないときも、スニーカーのひもを結び、自然の中を歩くことで「答え」が見えてきます。

燦々と降り注ぐ明るい陽射しの中で爽やかな風にあたりながら数十分歩くだけでも、高ぶっていた感情や考えがふと静まり、心が明るく軽くなります。現実は何も変わっていないのに、自分の心ひとつの変化によって世界が異なって見えるのです。

まぶしい春の陽ざしを浴びながら座っているとき、芝生に寝転んで青い空を見上げているとき、鳥の声を聞きながら緑が生い茂る森の中を歩いているとき、目の前に開けた青い海を眺めながら胸に広がる爽快感を満喫するとき、夜更けに漆黒の闇の中でひしめきあって輝いている星を見上げるとき・・・。私たちは思わず微笑んでしまいます。

自然は、私たちの考えや感情をリセットし、本来の「自然な」状態に戻してくれる不思議な力を持っているのです。

普段の生活では、あわただしい毎日に追われて本当の自分から遠ざかってしまいがちです。たまには豊かな自然に触れて自分自身とつながり、地球のエネルギーも感じてみましょう。伊勢志摩は、それを可能にしてくれます。ぜひ訪れてみてください。