地球の反対側で何が起こってる? 鉱山に見る自然破壊の深刻さ

日本ベンジャミン人間性英才学校は2月3日、公開メンター講義を行いました。講師は南米ボリビアの学者ロサリオ・ミランダ・ロマイさん。ベンジャミン生のためのメンター講義ですが、今回は特別に一般社団法人ECO賛助会員にも公開し、Zoomによるオンライン形式で開講しました。テーマは「自然との共生に向けて、地球の反対側で起こっていることを学ぼう」。世界有数の鉱山の町ポトシ周辺で500年間続いている環境汚染や児童労働の問題について語っていただきました。

■「鉱業の町」ポトシ
講師のロサリオ・ミランダ・ロマイさんは、ボリビア南部の都市ポトシにあるトマス・フリアス自治大学で、土木建設学科の教授をしています。ポトシは、アンデス高地の標高約4000m地点にあり、人が住む都市としては世界で最も標高が高い都市の一つとして知られています。「鉱業の町」としても有名です。

ポトシでは、スペインが入植した16世紀以降、鉱山から大量の銀が産出されました。スペイン人たちは先住民を過酷な労働に追い立て、大量の銀を手にしました。ポトシで掘られた銀は銀貨に鋳造され、船で欧州に運ばれ、スペイン黄金時代の源泉となりました。

 

■「美しい山」から「人食い山」に
インカの時代から先住民(インディヘナ)は、ポトシの山をケチュア語で「美しい山(スマッ・オルコ)」と呼んでいましたが、入植したスペイン人は、「富める山(セロ・リコ)」と名付けました。

やがて地元の人たちは「人食い山」と呼ぶようになります。先住民や、アフリカ大陸から連れて来られた奴隷たちが、この山で数百万人も死んだからです。入植以降、約800万人の先住民と奴隷が過酷な労働で死亡したとの記録もあるといいます。

ボリビアは現在、南米の最貧国です。ポトシの鉱山一体は1987年に世界遺産に登録されましたが、宗主国の「打ち出の小槌(こづち)」となった鉱山は、「負の歴史」の象徴ともいえます。

 

■深刻な環境汚染と健康被害
ポトシでは、今でも鉱山で大勢の人たちが働いています。ロマイ先生はメンター講義で、鉱山を発端とする健康被害が深刻だと教えてくださいました。コロナ禍前の2018年、2019年は川で泳ぐことができていたのに、昨年行ってみたら、有害な物質が流れていたそうです。

「毒性のある液体は、鉱物を採っている会社が流したものです。普段はため池に貯めておくのだけれども、雨が降ると溢れて流出する。会社側は責任感がなく、汚染が進んでしまっています」

「流れる水に鉛などが含まれているので、土地が荒れてしまいます。土壌だけでなく、細かいじん紛が空気中に漂い、それが肺に入る。地域住民は肺がんが多かったり、胃がんが多かったりするんです」などと、生々しい現実を語りました。

「川はずっと下に向かって流れていきますから、下流の広い地域を汚染してしまう。ブドウが採れてワインを作る地域もあったけど、全部ダメになってしまいました」

 

■児童が鉱山で働く
同時に深刻なのが児童労働の問題です。国連児童基金(ユニセフ)などによると、ボリビアでは児童労働が横行しており、とくに劣悪な環境にある鉱山での強制労働が問題化しています。

ポトシでは、粉塵による肺の病気も有り、寿命が45歳ぐらいだといいます。「みんな肺をやられてしまうから、大人も長生きできないんです」とロマイ先生。「肺の病気で男性、お父さんたちが早く亡くなってしまうから、それで子どもたちが働かなくちゃいけないというサイクルになる。子どもたちはもっと体が小さいし、弱い。それで死んでしまう子たちがいる」と説明しました。

また、標高が高く酸素が薄いため、作業中にマスクをつけるのもままならないそうです。「男の子だけじゃなく、女の子も働いている」といいます。

 

■質疑応答
レクチャーの後の質疑応答では、なぜこのような深刻な問題が放置されているか、といった質問が出ました。

ロマイ先生は「法律がないわけじゃないのだけど、(企業などが)守らないんです。市民がムーブメントを起こしたりもしているんだけれども、政府があまり認めない」と話しました。

また、技術が発達した今の時代において、機械でなく、人手に頼って採掘を続けることについても、質問が出ました。ロマイ先生は「機械は標高の低い所で使うものとして開発されている。鉱山は標高4000メートルで、機械が機能しない」などと答えました。また「採掘されるのは最初の原石の部分だから、その時点では価値も低い」ため、安価な労働力に頼りがちになるといいます。

 

■最も大切なのは「教育」
ロマイ先生は講義を通して「教育」の大切さを強調しました。「子どもたちが新しい未来を作るためには教育が重要。ポトシの子どもたちも、日本の子どもたちと同じように夢を持っている。本当にみんな学校に行きたいのです」と訴えました。

教育は、社会の安定や所得向上の原動力です。ボリビアのような開発途上国では学校に通えない子どもが多く、識字率も低いままです。ボリビアでは、鉱山だけでなく、路上での靴磨きや露店での物売りに子どもたちが従事しています。ロマイ先生は「政治の中で子どもたちの権利が重視されていないのも問題だ」と指摘しました。

 

■受講者の感想
メンター講義の後、受講者の皆さまから、多くの感想をいただきました。その一部を紹介します。

「身近なものに沢山の鉱物が使われていることを知って、私自身も川や自然を汚している当事者なんだなと思いました。私たちにとっては、学校に行きたくない日があったりするけれど、ポトシの子たちにとっては『Vacation』だと聞き、私が学校で授業を受けるよりもポトシの子たちが授業を受けるほうが何億倍もの価値があるんだろうなと思いました。でも、それと同じくらいの価値のある授業を作っていきたいと思いました。ポトシの子たちのために何かをするというプロジェクトをしたいです」(生徒)

 

「500年もの間、人の欲と利便性のために、人の命と自然、子どもたちの夢が犠牲になっていることに胸が苦しく、とても悲しくなりました。形は違っても、戦争や自殺など、国によって抱えている問題は、すべて共通することがあると思います。負のループから抜け出すにはどうしたらいいのか、正直とても難しいと思いますが、心が諦めてはいけないと教えていただきました」(賛助会員)

 

「銀に触れない日はないくらい、私たち人間の生活には銀がたくさんあります。それで豊かな生活を送っていることに、罪悪感をおぼえました。命と引き換えに、そして、自然と引き換えに、豊かすぎる生活を送っていたのだと、現実を知ることができてよかったです。ボリビアの子どもたちに、夢ではなく、現実の幸せを与えたいです。地球が豊かになるよう、日本から、人間性を回復していきます」(賛助会員)

 

「子どもが働かなければならない、学校に行けない現状、労働環境の悪さを改善できない国の対策の問題など、考えさせられました。未来につながる子どもたちの生き生きした姿を見たい。少しでも私たちに何ができるのかを地球市民活動として意識していきたいと思いました」(賛助会員)

 

「銀も他の有用鉱物も、また水銀も、もともと地中にあって、地中に埋まっているときは空気も汚れないし静かなのに、それを掘り起こしたりそれだけを分離させたりすることで、とても有害になることがとても不思議だなと思いました。人間が欲心で状態を変えるから、しわ寄せが起こるのかなぁと思いました。また、鉱山での営みに肺の病気が伴うというのは、科学的に見れば粉塵のせいですが、エネルギー的には、肺は悲しみだというのを思い出して、もしかして地球が悲しいから、人間の肺に影響が出るのかな、とか思いました」(賛助会員)