【地球アレコレ18】 ベトナム8

 

メコン川。
世界でも12番目という長さをもった川で、チベットから延々流れてきて、南シナ海の手前で広大なデルタ(三角州)地帯を作っています。

どのくらい広大か、といえば日本の面積の1/10くらい。九州全域より少し広い、と見ればいいでしょう(約39,000㎡)。その面積が延々、川また川、支流また支流、湿地帯また湿地帯、ときどき乾いた大地、また大小様々な支流と湿地帯・・・。
そのようにベトナムとカンボジアにまたがって、大平野、つまりデルタの低地、平地が拡がっています。ちなみに日本一大きな平野は関東平野ですが、それでもメコンデルタの半分以下の面積です。

広さもそうですが、そうした場所では交通手段として船が中心になります。もちろん道もあって車も走っていますが、でも雨期にはしょっちゅう水没してしまいますし、何より家や商店も川沿いだったり、時には水上だったりするので結局は船が自転車代わりのように使われます。

この写真は、そんなメコンデルタに多くある水上マーケットのひとつ。大きな規模ではなく、観光客もそれに合わせて現れる船上観光の客引きも、ほとんどいません。なので、浮かんでいる小舟はみんな生活の足として、売ったり買ったりしている人々が漕いでいるものです。ときとしてヤシの実や米などをたくさん積んだ中型船がエンジン音を響かせて過ぎゆき、その船からの波紋がさざ波となって、暫くの間小舟を揺らし、川にせり出して建てられている水上家屋の柱を軋ませます。それ以外は人々の声も町のマーケットに較べたら少なく、吹いてくる風の音、櫂と小舟本体の擦れる音が耳に残ります。
そしてどこまでも平地、また平地。

大きな河川の河口付近は、農業に適した肥沃な土地となることが多く、人も密集して大都市となることが多いのですが、ここメコンデルタはあまりにも規模が大きすぎ、しかも支流となる川が、まるで毛細血管のようにあちこちに入り込み過ぎています。それでも農業に適した場所も多く、メコンデルタの中心都市カントーは百万都市になっていますし、小規模な都市はあちこちに点在しています。
ただ、とても清涼感がある感じで、どこへ行っても爽やかな空気があり、心穏やかにさせるおっとりとした雰囲気が漂っています。それこそ水の力、そこの風土の力なのでしょうか。
地球上の各地で、それぞれの風土があり、それぞれの暮らしがあり、それぞれの気候に合わせた文化があります。またそこに住む人々の共通した心があります。
カンボジアまで拡がるメコンデルタには、ベトナム戦争やポルポトのジェノサイドなどの悲劇が付きまといがちですが、ここに住む人々は、過去の感情を広大なメコン川に静かに溶かされていくのか、顔つきも穏やかで、とにかく大声(と日本人には受け止められる声量)で話す人がほとんどいません。

そんなメコン川も近年は汚染が激しく進み、川イルカも絶滅が危惧されています。奪ったり奪われたりを何千年も繰り返し、こすっからく人を信用しないことが普通になってしまった地上の人々ですが、私たちは人から自然そのものも奪おうとしているのかもしれません。個々が、ではなく、富の再分配をせずにすむ今のシステム自体が、自然から収奪することを帰結としてしまっています。

人間の創造性(文明・文化)と全体の進化は、地球から奪うことではなく、無から創造する方向へ、つまり心のエネルギーから豊かな文化と生活を生み出す方向へ、シフトチェンジする必要に迫られています。そうなっても、この水上のマーケットはきっとあるでしょう。生活する人々の暮らしの楽しみとして、喜びとして。。。

 

 

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