【地球アレコレ26】 トルコ 2

 

トルコの首都はアンカラ、という都市ですが、それよりもインスタンブールの方がはるかに良く知られていますね。もっとも、人口もイスタンブールの方が3倍ほど多くて、日本的な感じに置き換えたら、大雑把にいって、アンカラ=名古屋、イスタンブール=東京、くらいでしょうか。

 

イスタンブールは長方形に近いトルコ国土の西端に位置しており、ギリシャやブルガリアの国境までもバスで4時間ほど。黒海とマルマラ海を細い線でつなぐボスフォラス海峡の両側に広がっている大都市です。この黒海~マルマラ海~エーゲ海と、天のいたずらのような細い海つながりが、イスタンブールのユニークさを生み出している一つとも言えそうです。

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Wikipedia「マルマラ海」より引用

世界中どこでも、地理と食べ物は当然ながらとても深く関わっています。ここイスタンブールは、羊肉やヤギ肉を食すことが多い土地柄に広がっていったイスラム文化とは一線を画していて、かなり魚類を食べます。まあでも、このユニークな海と都市の混じり合いをみれば、それも納得です。

 

そうして地元の人々に愛され、庶民的な食べ物の代表格となっているものの一つが、サバです。イスタンブールの近海で漁れ、適度に脂がのって食べやすい反面、すぐに鮮度が落ちて傷みやすく、交通が発達するまでは海岸ちかくでのみ食べられていた魚ですね。

 

写真は、イスタンブールの超絶B級グルメ、サバサンドを売っている場所。歴史的な観光スポットの一つ、ガラタ橋のたもとにいくつかもの小船が浮かび、そのよく揺れる船の上で、豊かにひげをたくわえたおじさんたちが鮮やかにサバを三枚におろし、たっぷりのオリーブオイルで素揚げをしています。近年では船が立派になり、世界からの旅行者が朝から晩まで集まってくる場所になっているそうですが、写真の時代はまだほとんど地元の人ばかり。土地代も建物を立てる必要もなく、サバを捕まえてはおろして、直径1メートルはあろうかという鉄板(フライパン?)に地元の安いオリーブオイルをたっぷり注ぎ込み、延々と素揚げしていきます。ときどき揺れで油がこぼれます。漁師がそのまま調理師、店主になります。その人々の遊び心が、収穫したサバの見せ方として表現され(?)毎朝少しずつ形を変えます。

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揚がったサバはごついバケット(トルコのフランスパン、とても重厚な小麦味とガッチリした歯ごたえの堅さ)にはさまれ、塩とレモン汁がパラリと振りまかれて、適当に切った新聞紙にくるまれて運ばれます。当時は買い求める人々と船のあいだに傾斜をつけて護岸されたコンクリがあり、販売人は毎日その10メートルほどの距離をサバサンド両手にひたすら行ったり来たりし続けていました。結構な急勾配です。足腰が強くならないはずがありません。

 

サバサンドをうけとったお客たちは、おもむろにあるバケツの元に向かいます。そこに玉ねぎを大雑把にスライスしたものが山盛りとなっており、それを指でつまんで大きさや新鮮さを確認して、サバサンドのなかに入れ込みます。ときどき、大きすぎたり乾燥しすぎたりしていたのか、戻して品比べをする人もいます。
不衛生といえばそうでしょうが、牧歌的でむしろそういうのが楽だ、と嬉々と日本語で話すバックパッカーの声が聞こえてきたり・・・。無くなりそうになると、時には客が隣にあるネットから玉ねぎを取り出し、野ざらしに置いてあるまな板と包丁でザクザクやります。

 

生きるために、揺れる小舟の上で、ただ黙々とサバを調理し続けるおじさんたちは、こちらがカメラを向けようと笑顔で手を振ろうと、何をしても終始無表情。よく揺れるのは、狭いボスフォラス海峡を延々と色々な船が行き交うからで、その度に大波小波が岸に向かって幾重にもやっては小舟を揺らします。
こんなに美味しいものを安く提供している、不安定な足場で船酔いもせず、鮮やかに包丁を振り回している、外国からの旅人の目にはそう映っていても、当人たちの思いはもちろん別にあるでしょう。雨が降れば商売あがったりでもありますし、言うなれば底辺の商売(今はもう全然様相がかわっているでしょうが)という思い込みだったかもしれません。
人がどれほど喜ぶか、その人の体がどれほど嬉しがるか、そうしたことが商売の価値を決めるのではなく、安さや演出、権威やブランドで価値が決まるとしたら、その社会は少し悲しいかもしれません。今の地球の問題そのもの、でしょう。

 

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